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道東越冬隊の記録
「ナチュラル・アウトドアライフ」9.豊かな暮らしってどんな暮らし?
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道東をドライブしていると、道路脇にたくさんの不動産の看板を見かけます。

はじめて北海道に上陸した日のこと。釧路空港に迎えにきてくれた夫と屈斜路湖に向かう道中、私は真っ白な景色がとにかく珍しくて、きょろきょろと窓の外を眺めていました。そこに飛び込んできた赤い文字の看板。

『温泉付き原野 1坪1万円より』

1坪1万円? 1坪1万円?? 1坪1万円!!!

「ねえねえ、1坪1万円温泉つきやって!100坪買っても100万円!」

新聞広告で見かける大阪の建て売り住宅はン千万円して当たり前。土地付きといっても30坪とか、せいぜいそんなもの。1坪1万円なら、大阪よりずっと楽に大きな土地が手に入って、広い家と庭が造れる。しかも、なんと温泉付き! いいなあ、いいなあ、庭の木に野鳥とかリスが遊びにきてさ、夏は庭でバーベキューしたり、冬は雪だるま作ったり、家は小さな1階建てでいいからテラスとか作ってさぁ・・・。

「あのな」夫はハンドルを握りながら冷静に返してきました。
「原野やねんで、原野。原野っていうのは木だらけの、手つかずの、造成されてない土地ってことやねんで。開拓するのにどれだけかかると思ってんねん」

そう言われても、私の興奮はすぐには醒めませんでした。
「年に1、2回来て、ちょっとずつ自分たちで開拓していくとかさぁ!」
「大阪からここに来るのに交通費なんぼかかるねん。で造成するのに何年かかるねんな」
「う〜ん、そうかぁ」
「それにな、水道とか電気ひいてくるのも、大変やと思うでぇ」
「あ〜」
「ほんで仕事はなにすんの。だいたい、こんな交通の便の悪いとこに住んだら、車がないと仕事先にも行かれへんねんで。雪道で乗れるか? 車」
「・・・」(私はペーパードライバーです)

こうして私の「北海道田舎暮らし計画」はわずか数分で消滅したのですが、道東にはその環境に憧れて、本州から移り住む人が少なくないようです。また札幌や帯広、釧路といった北海道の都心に住む人々が、自然に囲まれた道内の別荘地に週末を過ごすセカンドハウスを持つというケースも多いよう。

夫の写真仲間にもそんな方がいらっしゃいます。根室に住む、もう定年を迎えられた男性なのですが、屈斜路湖近くの別荘地に小さな家をお持ちなのです。
もちろんお風呂は天然温泉(しかもご自身の手作りの露天風呂!)。南向きのリビングには大きな窓があり、窓の先のテラスには野鳥たちの餌台。エサをついばみに野鳥がやってきます。すぐそばに渓流が流れ、さわさわと気持ちのいい水の音が聞こえます。週末になるとご夫婦でここを訪れて、スキーをしたり、撮影をしたりして楽しんでいるのだとか。

「このへんの土地はさぁ、退職金をつぎこめば十分手に入って、家も建てられるんだわ。安いからさ。あんたたちも大阪の家は借家にしておいて、こっちに家作ったらどうだい。車中泊しなくてすむさ。わはははは」

そうか。大阪で暮らす家は借家を通して、セカンドハウスを手に入れるという考え方もあるんだな。そのほうが安上がりだし、気持ちのいい暮らし方ができそうな気もするなあ。

もちろん、田舎暮らしがいいことばかりではないことは分かっています。暮らしてみなければわからない苦労は山ほどあるでしょう。

豊かな人生、豊かな暮らしってなんだろうと考えてみたとき。便利なモノに囲まれた都会での暮らしばかりが『豊か』だとはいえないように思います。私にはその北海道の田舎にある、雪に埋もれた暮らしがすごく豊かに感じられました。今の大阪の暮らしよりも。これは私のないものねだりなんでしょうか。

『豊か』だと感じる基準は人それぞれだと思いますけどね。だからこそさまざまなライフスタイルがあっていいのだと思います。自分にとって本当に豊かで充実した人生って、どんな生き方なんだろう。皆さんはそんなことを考えることはありませんか?

(2001.2.24配信「FINE NEWS」掲載)