前回まで、2回にわたって公衆浴場の温泉をご紹介してきましたが、今回からは露天風呂のお話です。
私にとって露天風呂とは、「大浴場の隅にガラスの扉があって、開けてみると外に小さな湯船。竹などでさりげなく周囲が覆われていて、小さな明かりがついていて・・・」そんな風流で上品なものだったのですが、道東・弟子屈町の屈斜路湖畔にある露天風呂はとてもオープンでワイルド。
私の露天風呂初体験は、初めて北海道に渡った日の、その夜のことでした。夫が連れて行ってくれたのは、「コタンの湯」という名前の、湖の目前に作られたお風呂。地元の皆さんの手作りで、誰でも無料で利用できます。CM撮影に使われたこともあるそう(所ジョージが出ていた「早送り再生をしても言葉はちゃんと聞けるビデオデッキ」のCMといえばご存じの方も多いのでは?)。ここは旅番組でもよく紹介されています。
雪に埋もれたその小さな露天風呂には、小さなあかりが灯っていましたが、もちろん屋外なので暖房なんてナシ。脱衣所は男女別の小さな物置のような小屋があるのみです。お風呂は中央に大きな岩が配してあるけれど、実質的には混浴。周囲には目隠しになりそうにない低い垣根。そして気温は、たぶんマイナス10度台。
その日、大阪からやってきたばかりの都会っ子は、そのロケーションに少々たじろぎました。なんとワイルドな。こんな寒いのに、服脱いで、今からここに入るっていうの?
「夜だったら暗くて外でも抵抗ないでしょ。人もあんまりこないし」 夫は露天風呂大好き。さっさと服を脱いでいます。
よーし、入ってみようじゃないの!
ほかに人がいないのを確認して、吹きさらしの脱衣所で厚着した衣類を急いで脱ぎ(緊張のせいか、思ったほど寒さは感じませんでした)、すっぱだかで5歩ほど歩き(裸で屋外を歩いたのはきっと赤ん坊の時以来!)、露天風呂に足を入れてみました。なかは石造りで、深さはひざぐらい。肩までつかってしばらく熱さを我慢していると、体が慣れて心地よくなってきました。
首から上では氷点下の冷たい空気を感じるのですが、体が温まっているのでその冷たさがいい感じです。視線を上にやると、高い壁や天井が見えるのではなくて、大きな大きな空と、信じられない数の星のまたたきが見えます。体中の緊張が解けるような、なんともいえない心地よさを感じました。
しばらくして、目の前で「コッコッコ」という小さな鳴き声と、水が静かに動く音に気がつきました。何だろうと目を凝らしてみると、手の届く距離に、オオハクチョウが眠っていたのです。
それが生まれてはじめて見た、野生のハクチョウの姿でした。
屈斜路湖畔には、氷点下の気温にもかかわらず、凍ることのない場所があちこちにあります。温泉が湧いていて、水温が高いためです。シベリアから日本に渡ってきたオオハクチョウの一部が、そんな凍らない水辺で越冬しているのだそうです。
この「コタンの湯」前もそう。あたたかな水辺を、十数羽のオオハクチョウがねぐらにしていたのでした。体に長い首をのせて、水面を小さくたゆたいながら眠っています。私たちの気配に気づいて「ウルサイナ!」と思ったのか、目を覚まして小さく鳴いているのもいました。
「じゃましてごめんねー」
野生のオオハクチョウが、すぐ目の前で眠っているのがとても不思議でした。そして私は素っ裸。目前には凍った大きな湖、空にはたくさんの星。
人が生きている地球という星にはたくさんの生き物が共存していて、その星は宇宙のある場所にぽつんと浮いているのだ、ということを、強く実感した時間でした。
(2001.1.13配信「FINE NEWS」掲載)
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