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道東越冬隊の記録
ナチュラル・アウトドアライフ」1.プロローグ
2.氷点下の夜の車中泊→

結婚したら勤めを辞めて主婦となり、パートで家計を支えながら子育てをする平凡な日常がやってくるのだと、社会に出た頃から思いこんでいました。

ところが、実際に結婚してみると、とんでもない非日常が待っていたのです。それは、

厳寒の北海道・道東地方での、約1ヶ月間におよぶ車中泊の旅。

私の夫は雑誌を中心に撮影の仕事をしているカメラマン。毎年冬になると約1ヶ月間、「職場放棄月間」と称して仕事を中断し、道東に撮影旅行に出かけます。これは彼の学生時代からのライフワーク。シベリアから渡ってくるオオハクチョウの姿を撮り続けています。この旅を続けるために、会社に就職せずにフリーの道を選んだのだとか。

だから結婚して所帯を持っても、彼のこの撮影旅行はかわらず続きます。それだけでなく、一度は妻を連れて来て、冬の北海道の大自然を見せ、そこでの時間を一緒に過ごしたいと、この旅を始めた頃から考えていたそうです。

そんな彼と結婚した私は、この寒い土地でのアウトドアライフを経験することになったのですが・・・私は運動オンチで高校のスキー合宿は仮病を使って休んだような超インドア女。おまけに、結婚する前は「不夜城」と呼ばれる出版社で情報誌の編集をしていて、毎日深夜まで机に向かい、明け方にタクシーで帰宅する生活を続けていました。街のトレンドを追いかけて、リッチなランチを食べたり、流行りの服や雑貨に埋もれた生活を送っていましたが、いつも締め切りに追われて精神的に追いつめられた、少々息苦しい日々を送っていました。

夫と結婚することになるなんて思ってもいなかった頃は、彼の旅の話を「は〜、よくわかんないけど寒そうですよね」と、別世界の話として軽く聞き流していました。撮っているのはツルだと、何度聞いても間違えていたし。

・・・一体どんな服装なら寒くないんだろう? 街じゃ着られないデザインのアウトドアウェアを着込むんだろうなぁ・・・カニとかイクラとか、美味しいものはいっぱいありそうだけど、そういうのを食べられる生活じゃなさそうだし。車中泊っていうけれど、ドライヤーで髪乾かしたり歯磨きしたりできるのかしら? だいたい、ちゃんと使えるトイレはあるの? う〜ん、私なんか絶対できない旅!

そんなふうに思っていたのに、彼の妻となり、その旅に同行することになってしまったのだから、本当にわからないものですね。

人生のパートナーとなった人と長期の旅に出る。

もしかしたら、お互いを深く理解できるきっかけになるかもしれない。

それに、今まで私が生きていたところと全く正反対の世界には、まだ知らない楽しいことがたくさん待っているかもしれない。

こんな機会、なかなかないよね!

そんなふうに考えることにしたら、不健康な都会暮らしに染まっていたインドア女の私でも、ごく自然に行ってみようという気持ちになれたのです。しかし、慌てたのはそれぞれの親。

「おまえ、結婚しても行くつもりか。嫁さんまで連れて!」とあきれる義父。

『おかあさんには、そこがどんなところか全くわかりません。二人が無事に戻ってくることだけを祈っています』と、大層なメッセージをFAXしてきた母。

「うちのお母さん、私たちが北極か南極にでも行くと思ってんのかな」
「日本語が通じてコンビニもあるところだって説明しといたけどな」

夫は、私がこの旅のスタイルを受け付けずに音を上げたら、次からはまたひとりで行こうと考えていたそうです。しかし私は、雪の中のナチュラルライフがすっかり気に入ってしまいました。

「よし、可能な限り毎年一緒に行こう!」そう決めて翌年、2度目の旅へ。

そして今は、約2ヶ月先にせまった3度目の旅が待ち遠しいばかり・・・。

(2000.11.04配信「FINE NEWS」掲載)